傑作度ナンバーワン!旅客営業規則の「無礼旅客」

2020年9月26日(土)


     何かいいネタが無いかと、鉄道会社のホームページをざっと見渡してみた。しかし、いいネタが見つからない。したがって、旅客(りょかく)営業規則に手を伸ばしてみることにした。旅客営業規則は運送約款(やっかん)とも呼ばれるが、厳密に言えば、運送約款のうち旅客に関するものを旅客営業規則と言う。
    なお、一般に「旅客」と書いて「りょかく」と読む。「旅客機」を「りょかっき」と読むことと同じである。「りょきゃく」という読みも間違いないではないのだが、「りょかく」が本来の読みであり、鉄道業界では「りょかく」を使用している。

    手始めに某鉄道事業者の旅客営業規則を眺めてみた。出てくる、出てくる。拾い上げたら9件になった。特に「無礼旅客(ぶれいりょかく)」という文字を見たときは吹き出してしまった。
    これは「無札旅客(むさつりょかく)」の誤植であると推察される。「無札」とは鉄道の業界用語であり、「
きっぷ」を買わずに列車に乗車することを意味している。すなわち不正乗車のことである。

     鉄道業界の専門家が文言(もんごん)を入力すれば問題無いのだが、専門家でない人物が入力すると、目視認識の段階で見誤ることになる。
    文書の改版作業については、起案者が作業者に指示していると推察される。起案者は、当然のことながら鉄道会社の従業員であるが、作業者は鉄道会社の従業員ではなく、鉄道とは無縁の別会社(印刷会社など)であるかもしれない。作業者は、「無札」という業界用語を知らなかったために、「無札」という単語を見ても「無札」という単語に結びつかず、次のいずれかの間違いを犯したものと推察される。
①  作業指示書にある「無札」を「無礼」という単語であると見誤った。
②  作業指示書にある「無札」を「無札」と認識したものの、「無札」の意味を知らず「無礼」の誤植であろうと判断し、良かれと思って「無礼」としてしまった。

    ただ、起案者側は、当然のことながら成果物の確認作業を行ったと推察され、その段階で誤植を発見できなかったのは遺憾である。

    その他の誤植も含めて、その鉄道事業者に修正を進言してみた。

<進言主旨>

(1)  無礼
【誤】無礼旅客
【正】無札旅客

(2)  計算上のキロ程
【誤】料金計算上キロ程の
【正】料金計算上のキロ程の
【補足】
    これは、作業者が文字入力する際のキーボード誤操作であると推察される。パソコンあるあるである。

(3)  削除参照
    第○○条第2項(5)に「第××条の2の規定により、」という文言があるが、第××条の2は削除された状態であり、存在しない。
【補足】
    これは、起案者が第××条の2を削除する際の確認不足であると感じられる。

(4)  前項
    第○○条第3項にある「前項の規定」の「前項」というのは、文脈上、第1項を示している。しかし、第3項の条文において「前項」と記載すると、第1項ではなく第2項を示す。
【誤】前項
【正】第1項
【補足】
    これは、起案者側の推敲(すいこう)不足であると感じられる。

(5)  は数計算
    規則全体において、「は数計算」という用語の「は」という文字の上方に、留意のための
丸点を記載している。しかし、第94条の2の第2項にある「は数計算」の「は」の上には丸点が無い。

丸点

【補足】
    これは、作業者が文字入力する際のキーボード誤操作もしくは丸点追加の失念であると推察される。
    もし作業指示の段階で丸点が無かったとすれば、作業者は、起案者に確認してみるべきことである。

(6)  補足
【誤】捕足
【正】補足
【補足】
    「捕捉」という単語は存在するが、「捕足」という単語は存在しない。「ほそく」を仮名漢字変換すると、「補足」や「捕捉」は現れるが、「捕足」は現れない(IME2010)。どのようにして「捕足」に到達したのか不思議である。「ほそく」を仮名漢字変換したのではなく、「とらえる」と「あし」を仮名漢字変換したのであろうか。

(7)  とする。
【誤】次のとおりと
【正】次のとおりとする。
【補足】
    これは、文字入力時におけるキーボード誤操作であると推察される。パソコンあるあるである。

(8)  次行
    第○○条において、「次のとおりとする。」となっているが、次行が存在しない。
【補足】
    おそらく、印刷物をワープロ文書化する段階では次行が存在していたのであろうが、作業者がその次行の文言をワープロ文書化する際に、目線が先へ進んでしまったものと推察される。

(9)  とし
【誤】預けるものし、
【正】預けるものとし、
【補足】
    これは、文字入力時におけるキーボード誤操作であると推察される。パソコンあるあるである。

    鉄道事業者から回答が届いたのだが、回答内容については開示しないよう要請されている。

<結果>
    修正されていない(2020年12月7日現在)。旅客営業規則は鉄道会社と利用者との間で交わされる運送契約の根幹をなす
重要文書である。その重要文書における誤植の指摘を受けても放置されたままというのは言語(ごんご)道断である。