社会貢献やいかに!数学と共に歩む人生

2020年12月6日(日)


    先日、現役時代の顧客によるFacebook(フェイスブック)記事を目にした。そのかたは大学教員であって、私が現役時代に、私から多くの気象機器を購入してくださったかたである。そのかたの専門分野は森林生態学であるが、数学の授業も担当している。そのかたが投稿した記事に、数学を学ぶ学生の
「数学が将来どんなふうに役立つか」という悩みが紹介されていた。

    私は、その教員にメールで次なる主旨を伝えた。
①  「数学が将来どんなふうに役立つか」は、数学を学ぶ者にとって重要な問題である。
②  自分も数学が好きであり、大学では理学部数学科に所属した。
③  就職後に勉強した知識を生かして、数学に関連するソフトを開発し、一般販売した。

    そうすると、その教員から次なる主旨のメールが届いた。

①  自分はずっと大学で研究・教育してきたので、数学が社会で役立つ事例について、学生に実感を持って語ってやれないのが残念である。
②  大学での学びがどのように実業につながったか、どう学んでおけばよかったと思うか、というような話をもっと聞かせてくれるとありがたい。

    私は、次なるメールを送った。

***(ここから)***
    私は高校1年生の時、数学授業に全くついて行けませんでした。中学の数学と高校の数学には大きな開きがあると感じました。高校1年生の時の数学教師は20代の教員1年生でした。その教員が悪いとは言いませんが、私の数学の試験結果は40点前後(100点満点)でした。
    2年生になって別の教員(クラス担任)になった途端に数学が好きになり、100点が取れるようになりました。その教員は50代のベテラン教員でした。
    数学の魅力にとりつかれた私は、大学でも数学を専攻しました。しかし、高校の数学と大学の数学では大きなギャップがあり、大学の授業について行けませんでした。数学科における授業は、問題を解くのではなく、定理の証明ばかりでした。プログラム言語に関する授業は、FORTRAN(フォートラン)言語について1週間の集中講義と演習があっただけでした。そういう時代でした。

    就職先は老舗(しにせ)の化学工業でした。企業のコンピュータ部門と言えば給与計算や売上計算などを行う部署が目に浮かびますが、私が配属されたのは、新工場(兵庫県赤穂市(あこうし))の開発部署でした。当時の上司は、大学で学んだことには期待していなくて、数学的センスに期待していると言っていました。その部署では、化学プラントの監視システムを開発しました。その際に、数値計算という分野に出くわしました。それは、大学の数学とは別の魅力ある学問でした。
    新工場の建設が完了したのちは、本社(東京都千代田区)の技術部門に移り、ますます数値計算にのめりこみました。特に、OR(オペレーションズリサーチ)と統計数学です。
    その後、その知識を携(たずさ)えてコンピュータ部門に移り、社内にOR(オペレーションズリサーチ)と統計数学のソフトを広めました。次にその企業の子会社に異動し、自分で開発したOR(オペレーションズリサーチ)と統計のソフトを一般販売しました(子会社の本業はソフト販売ではありません)。双方合わせて、大学助教授(個人)に200万円で販売したこともあります。当時の子会社の社長は、思わぬ副収入にいたく喜びました。

    統計ソフトは類似品も多かったので売れませんでしたが、OR
(オペレーションズリサーチ)ソフトのほうはよく売れました。OR(オペレーションズリサーチ)ソフトとしては、次の3本を開発しました。
①  一般型線形計画(LPかるく)
②  輸送型線形計画(輸送かるく)
③  待ち行列(Qかるく)

    この中では①が最もよく売れ、年間で10本程度売れました。1本20万円でしたが、原価はゼロなので、小さな子会社にとっては顕著な利益になりました。①については、当時、競合品がありましたが、その競合品は高額だったのです。
    親会社のコンピュータ部門から、私の所属する子会社の社長のもとへ、OR(オペレーションズリサーチ)ソフトを売らせてほしいという打診がありました。その時、社長は、「あれは◯◯(私のこと)じゃないと売れませんよ。」と言って断りました。

    私のソフトの購入者は、大学の教員や大企業の企画担当者でした。大学のほうでは、学生の理解をアシストするためのツールにすぎなかったのかもしれませんが、企業のほうでは、増益やコストダウンに関する経営戦略に貢献したと感じています。中には莫大な利益につながったモデルもあったかもしれません。その点については、社会に貢献したと感じています。

    ご参考に、①②③の利用者一覧表を添付します。

    OR
(オペレーションズリサーチ)(特に線形計画)は、もともと(アメリカで)軍事目的で発展しました。それが、経済分野でも利用されているのです。確かに、それは数学だけのチカラではなく、エレクトロニクスの進歩があってのことです。しかし、エレクトロニクスだけが進歩しても、その学問が誕生したとは思えません。数学という学問が存在したからこそOR(オペレーションズリサーチ)が誕生したのです。

    私のOR
(オペレーションズリサーチ)ソフトの用途は次のとおりです。

①  一般型線形計画(LPかるく)
    限られたコストの中で最大の利益を上げる、あるいは、限られた条件の材料を使って製造原価を最小にする。これらはものづくり企業の経営陣や技術陣にとって普遍的命題ですが、そのシミュレーションに利用されます。利用業界は、製造業、畜産業、加工業、防衛機関などです。
②  輸送型線形計画(輸送かるく)
    複数の供給地から複数の需要地へ商品を輸送する。その総輸送費を最小にするための各輸送量を決定します。これは輸送部門にとって重要な問題です。利用業界は、物流業、製造業、建設業などです。
③  待ち行列(Qかるく)
    ランダムに到着するサービス要求者に対して、サービス提供者は何か所の受付窓口を用意すればよいか。その問題のシミュレーションができます。利用業界は、鉄道事業、港湾設備業、銀行 、ガソリンスタンドなどです。

    コンピュータプログラマは素質を問いませんが、数学が好きという性格はプラスに作用すると感じています。特に、数値計算を理解するには、数学の下地があることが必要です。社会と近い距離にあるのは応用数学(ORや統計)であると感じられます。基礎数学(代数や幾何)が社会に役立つ事例というのは、(自分に体験が無いので)判然としません。

    大学で数学を学ぶことの価値は、数学というカチカチの学問を追及する性格を育てることにあると感じています。その性格は、良い言い方をすればキチンとした性格であり、悪く言えば重箱の隅をつつく性格です。社会には、その重箱の隅をつつく性格が必要な業務も数多く存在します。
***(ここまで)***

    メールに添付した書類は次のとおりである。


    以下の資料は、当時、私がWord(ワード)で手作りしたカタログである。

①一般型線形計画(LPかるく)

オモテ面

ウラ面

②輸送型線形計画(輸送かるく)

オモテ面

ウラ面

③待ち行列(Qかるく)