改札口らしきものはあるが、それは東芝系列企業の守衛所である。したがって、東芝系列企業従業員以外はそこを通ること(すなわち駅の外に出ること)はできず、列車で引き返すしかない。駅の外には道路があるので、タクシーや徒歩で駅に来ることはできるが、駅に入場することはできない。
観光客なんか来なくていい。そんなひとりごとが聞こえてきそうである。
ホームの隣は岸壁であり、東京湾の波がキラメキを見せる。
立石寺(りっしゃくじ)に立つ松尾芭蕉(まつおばしょう)の境地である。そんな思いにひたっていたら、有名な一節(いっせつ)をもとにその心境を表せることに気づいた。
<「奥のテツ道」の海駅>
<「奥の細道」の山寺>(原文)
山形領に立石寺(りっしゃくじ)といふ(いう)山寺あり。
横浜市に海芝浦(うみしばうら)といふ(いう)無人駅あり。
東芝系列の敷地にして、ことに清閑(せいかん)の地なり。
一見(いっけん)すべきよし、みずからのポリシーによって、鶴見(つるみ)より乗車し、その間(かん)一里(いちり)ばかりなり。
品(ひん)いまだ落ちず。
閑(しず)かさや
鉄にしみ入る
波の声
筆不精(ふでぶしょう)
<「奥の細道」の山寺>(原文)
山形領に立石寺(りっしゃくじ)といふ(いう)山寺あり。
慈覚大師(じかくだいし)の開基(かいき)にして、ことに清閑(せいかん)の地なり。
一見(いっけん)すべきよし、人々の勧(すす)むるによって、尾花沢(おばなざわ)よりとって返し、その間(かん)七里(しちり)ばかりなり。
日(ひ)いまだ暮れず。
閑(しず)かさや
岩にしみ入る
蝉(せみ)の声
松尾芭蕉(まつおばしょう)
景観抜群で海に一番近い駅