2024年4月20日(土)
鉄道きっぷあってこその鉄旅であるが、多くの鉄道きっぷは、硬券から磁気券へ、そして電子きっぷへと変化している。紙きっぷはかろうじて生き残っているが、いずれそれも全廃されるのだろうか。旅情に欠けることこのうえない。
JR東日本では、自社の電子きっぷを次のとおり命名している。
【新幹線用】新幹線eチケット
【在来線用】在来線チケットレス特急券
電子きっぷの場合、紙製の座席案内票を受け取ることもできるが、コンビニレシートのような何とも味気ない伝票である。
電子きっぷは、紙きっぷよりも安価であるなどの特典がある。
また、JR東日本とJR北海道では、「大人の休日倶楽部(クラブ)」という会員サービスを提供していて、年齢によってミドル会員とジパング会員に分かれる。ジパング会員は、「大人の休日倶楽部」ジパング会員割引(以下「大休(おときゅう)30割」)を利用することができる。大休30割とは、JR東日本管内とJR北海道管内の乗車券(片道/往復/連続)の営業キロが200km超であれば、運賃・特急料金・急行料金・指定席料金・グリーン料金が何度でも3割引きとなる制度である。大休30割を適用可能で、乗車券の区間と新幹線の区間が同一であれば「おときゅうeチケ」という電子きっぷも存在する。
JR東海以西の路線については、ジパング倶楽部(クラブ)割引(以下「ジ3割」)を適用することができる。大休30割もジ3割も、次の条件を除いて適用条件は同じである。
① 適用回数
② 電子きっぷの有無
大休30割適用可否を検討する場合、乗車券(片道/往復/連続)の営業キロに応じて次の2種類に大別される。
(a) 200km超
大休30割を適用することができる。
(b) 200km以下
次なる工夫を施すことによって合計営業キロを200km超にすることができれば、大休30割を適用することができる。
【区間】乗車券の出発地か目的地あるいはその両方を変更して営業キロを長くする
【種別】往復乗車券や連続乗車券にする
安価な「きっぷ」としては、「トクだ値(ね)14」(以下「トクだ値」)もあるが、列車・座席数・区間限定である。「トクだ値」の中でも、在来線チケットレス特急券は、一般料金(紙きっぷ)の35%引きなので、大休30割よりもお得である。「あずさ/かいじ」については、在来線チケットレス特急券のことを「トク割」と称している。
なお、「トクだ値」については、次のことが言える。
【新幹線】
大宮発着が設定されているので、大休30割よりも「トクだ値」のほうが安価となる区間がある。
【在来線特急列車】
発着駅が「上野/新宿/東京」なので「トクだ値」のほうが安価となる区間を見つけることができない。
「大宮/久喜(くき)/柏(かしわ)」を出発地とする場合、下図の緑区間以遠の駅について大休30割を適用することができる。
この他にも、久留里(くるり)線において次の区間が該当する。
【緑区間】馬来田(まくた)~下郡(ひらやま)
【赤区間】上総松丘(かずさまつおか)以遠
緑区間と赤区間について、適用方法と片道乗車券の営業キロは、次のとおりである。
【緑区間】
【営業キロ】80km超100km以下
【適用方法】目的地を赤区間の駅に変更して往復乗車券にする
【赤区間】
【営業キロ】100km超120km以下 【適用方法】往復乗車券にする
なお、次なる3駅については、大休30割を適用するよりも、品川と横浜で分割したほうがお得である。
【分割対象】藤沢(ふじさわ)/北鎌倉(きたかまくら)/鎌倉
土日祝日など「のんびりホリデーSuica(スイカ)パス」(以下「のんびり」)の利用可能日であって、次なる駅については「のんびり」のほうがお得である。
【大宮発着】富田(とみた)~足利(あしかが)/鳥沢(とりさわ)~大月(おおつき)
【柏発着】藤沢(ふじさわ)~小田原(おだわら)
また、土日祝日など「休日おでかけパス」の利用可能日であって、次なる駅については「休日おでかけパス」のほうがお得である。
【柏発着】木更津(きさらづ)~上総亀山(かずさかめやま)
一般に、片道乗車券の営業キロが100km超120km以下の場合は、その往復乗車券の大休30割よりも「のんびり」のほうが安価である。しかし、「柏~久里浜(くりはま)」間は全線が電車特定区間であるために運賃がやや安価であり、「のんびり」よりも大休30割のほうが、わずかにお得である。
【大休30割(電車特定区間内のみ)】2,620円
【のんびり】2,670円
【大休30割(電車特定区間外を含む)】2,760円
緑区間より出発地側の駅であっても、新幹線や在来線特急などを利用する場合については、運賃と料金の合計額がお得になる場合が存在する。
この他にも、新幹線と在来線を利用した折り返し経路など、いくつかの最遠駅が存在する。しかし、あまり現実的ではないので、掲載を省略した。
また、JR東日本が提供する電子きっぷのひとつとして「JRE POINT特典チケット」(以下「特チ」)というものがある。特チの特長は次のとおりである。
① 新幹線と在来線特急列車
【設備】普通車指定席
【価格】自由席より安価(一部例外有り)
【繁忙期/最繁忙期】利用可
【支払い】JREポイント
【往復】別々購入
【変更】何度でも可(手数料無し)
【払い戻し】可(手数料320P)
【ポイント付与】無し
② 新幹線
【区間】JR東日本の新幹線駅同士
【乗車券】含む
【後続列車】自由席・立席(たちせき)利用可
③ 在来線特急列車
【区間】JR東日本の対象となる在来線特急列車の停車駅同士
【乗車券】含まず
【後続列車】立席利用可
特チは価格帯が広く、4段階しか存在しない。したがって、同一価格帯の中の最遠駅の場合は、換金率が非常に良い。しかし、特チではポイントが付与されないが、特チ以外ではポイントが付与される。下図は、色分けによって価格帯を示した図である。
電子きっぷは、対象列車の停車駅同士限定であり、はみ出し乗車する場合、その部分は別途精算になる。一方、紙きっぷのほうは、乗車券と特急券を分けて考えるので自由度が高い。
また、特チを除き、支払額や購入方法などに応じてJREポイントが付与される。「1P=1円」として併せて考慮した上で、どの手段が最も安価であるのか、いざ計画立案という際に困らないよう具体的に把握しておきたい。したがって、利用頻度の多い路線についてExcel(エクセル)で比較表を作ってみた。条件は次のとおりである。
【出発地】大宮/柏/船橋
【時期】通常期
【平日/土休】土休
【事前/車内】事前
(1) 新幹線
駅別比較表は、下表のとおりであり、最も安価な「きっぷ」は黄色で示す「きっぷ」である。
「目的地」にある「や」と「は」の意味は、次のとおりである。
【や】やまびこ料金
【は】はやぶさ料金
「トクだ値」にある「30(は25)」の意味は、次のとおりである。
【はやぶさ号以外】トクだ値30
【はやぶさ号】トクだ値25
「電子きっぷ」欄と「トクだ値」欄は、付与ポイントを引いた値である。
大休30割の料金は通常期であり、その欄の灰色は紙きっぷの価格である。
特チの「差」と「率」は、「価格差」と「換金率」を表しており、次のとおりである。
【大休30割≦トクだ値】
【差】大休30割-特チ
【率】大休30割/特チ
【大休30割>トクだ値】
【差】「トクだ値」-特チ
【率】「トクだ値」/特チ
「10km超200km以下」の区間の距離別比較表は次のとおりである。
「合計」欄は、付与ポイントを引いた値である。
この表は、運賃区間と新幹線区間が同一の場合である。運賃区間と新幹線区間が同一でない場合は、運賃区間の運賃と新幹線区間の特急料金をこの表から個別に抽出して合計することとなる。但し、指定席の一般については、この方式で算出することはできない。
【例】大宮から野崎(のざき)までの指定席片道大休30割
【運賃区間営業キロ】116.3km
【運賃】1,373円(上限値120km)
【新幹線区間営業キロ】79.2km(大宮~宇都宮)
【特急料金】1,664円(上限値80km)
【合計】3,037円
なお、距離別比較表における60km以下の自由席特急料金欄の金額は特定特急料金である。この表は大宮発着の場合について記載しているので、大宮発着以外の距離帯によっては特定特急料金が存在しない場合がある。その場合は表中の特定特急料金ではなく自由席特急料金(=指定席特急料金欄の金額-530円)を採用することとなる。
【例】くりこま高原から水沢江刺(みずさわえさし)までの自由席片道一般価格
【運賃区間営業キロ】53.9km
【運賃】960円(上限値60km)
【新幹線区間営業キロ】53.9km
【特急料金】2,400円-530円=1,870円
1,870円×(1-0.03)=1,864.39円
⇒1,864円(四捨五入)
【合計】2,830円
なお、距離別比較表は次の区間を含んではいない。
【東北新幹線】大宮以南
【北海道新幹線】新青森以遠
【秋田新幹線】盛岡以遠
【山形新幹線】福島以遠
【上越新幹線】「越後湯沢~ガーラ湯沢」間
【北陸新幹線】上越妙高(じょうえつみょうこう)以遠
50km程度(「大宮~熊谷(くまがや)」など)では指定席を利用せずに自由席を利用することが一般的であると感じられるが、もし敢(あ)えて指定席を利用する場合は、(運賃は割高であるが特急料金が割安なので)大休30割にしたほうが合計価格が安価であることを示している。
この表により、新幹線においては一般価格と大休30割の優劣分岐点が60kmであることがわかる。これは通常期と閑散期の場合である。繁忙期と最繁忙期における優劣分岐点は50kmである。
なお、価格帯③④においては、超閑散期間限定であるが、「大人の休日倶楽部パス(東日本)」(以下「大休パス」)を検討すべきである。一般に、新幹線や在来線特急の普通車指定席を利用して通常期に大宮出発で往復する場合、付与ポイントを考慮すると「盛岡(はやぶさ/こまち)/あつみ温泉」以遠については大休パスが最も安価である。
(2) 在来線
本記事が対象とする特急列車と発着駅は次のとおりである。
【わかしお】船橋発着(蘇我(そが)乗り換え)
【しおさい】船橋発着(千葉乗り換え)
【ひたち/ときわ】柏発着
【草津・四万】大宮発着
【あずさ/かいじ/富士回遊】大宮または南越谷(みなみこしがや)発着(立川(たちかわ)乗り換え)
【踊り子/サフィール踊り子】柏発着(東京乗り換え)
これらの特急列車の場合、大休30割のほうが安価となる駅は、下図の赤丸印の区間の駅である。
さらに、JR東日本の在来線には、この他に次なる特急列車が存在するが、利用機会が少ないので、本記事の対象列車とはしない。
【内房線】さざなみ/新宿さざなみ
【総武線】成田(なりた)エクスプレス
【高崎線】スワローあかぎ/あかぎ
【中央線】はちおうじ/おうめ
【東海道線】湘南/サンライズ瀬戸/サンライズ出雲(いずも)
<わかしお/しおさい>
ここで、途中下車について言及しておきたい。
「船橋~安房鴨川(あわかもがわ)」間の乗車券は、途中下車前途無効である。それは、大休30割を利用する場合でも同じことである。途中下車前途有効にするためには、新幹線区間を含めなければならない。単に「上野~東京」間を含めて「上野~東京~安房鴨川」間の乗車券を申し込んでも「東京山手線内~安房鴨川」間になってしまうので、新幹線区間を含めることができない。したがって、「三河島(みかわしま)⇒船橋⇒安房鴨川」間と「安房鴨川⇒船橋」間という連続乗車券にするしかない。すなわち距離が長くなるのである。往路の「三河島⇒船橋」間については、掛け捨てである。「えきねっと」では連続乗車券を受け付けないので、出発当日に駅の「みどりの窓口」で購入するか、あらかじめ旅行会社でジ3割を利用するしかない。
「サンキュー♥ちばフリーパス」(以下「サンキュー」)はシンプルであるが、高額である。
「のんびり」を利用する場合、茂原(もばら)以遠については都度払いとなる。
仮に大原で途中下車すると仮定すると、その採算は次のとおりである。
【大休30割(三河島発)】2,990円
【サンキュー】3,970円
【都度払い】4,000円
【のんびり+α】4,758円
<あずさ/かいじ/富士回遊>
「春日部(かすかべ)~立川(たちかわ)」間の場合、次の3通りが考えられる(新宿乗り換えは距離が長いので検討しない)。
【A案】新越谷(しんこしがや)/南越谷乗り換え
【経路】南越谷~西国分寺~立川
【営業キロ】44.3km
【B案】南浦和乗り換え
【経路】大宮~南浦和~西国分寺~立川
【営業キロ】40.3km
【C案】武蔵浦和(むさしうらわ)乗り換え
【経路】大宮~武蔵浦和~西国分寺~立川
【営業キロ】38.0km
往路の場合、A案は南浦和や武蔵浦和の乗客に先行して武蔵野線に乗車するので着席可能性が高い。但し、A案はB案よりも4km長いので、目的地によっては運賃割高となる場合が存在することに留意しなければならない。
往路についてはA案が好都合であるが、復路については、行程上の都合が合えば「八王子(はちおうじ)~大宮」間を直通する「むさしの号」が好都合である。
なお、B案とC案については、次のことに留意すべきである。
一般に、運賃計算経路は、経路に依存して次のとおり計算される。
【東京近郊区間内で完結】最短経路
【東京近郊区間外のJR駅を利用】実際の乗車経路どおり
「あずさ/かいじ/富士回遊」停車駅(八王子以遠)から大宮までのうち「立川~大宮」間の運賃計算経路は、出発地に依存して次のとおり計算される。
【松本(まつもと)から立川まで】武蔵浦和乗り換え
【南小谷(みなみおたり)から豊科(とよしな)まで】実際の乗車経路経由
すなわち、前者の場合は、(特急非停車駅が出発地である場合を含めて)実際に利用する経路がB案であってもC案であっても、運賃は同額である。
また、後者の場合は、「立川~大宮」間の経路について、C案は運賃計算キロがB案よりも2.3km長いものの、B案の経路よりも高額となる特急停車駅は存在せず、どの特急停車駅についてもB案と同額である。
したがって、復路において「あずさ/かいじ/富士回遊」を利用して八王子または立川で普通列車(快速を含む)に乗り換える場合、B案でもC案でも運賃は常に同額である。
<踊り子/サフィール踊り子>
「春日部~東京」間の経路としては、次の2通りが考えられる。
【A案】
【乗り換え駅】柏
【JR区間営業キロ】32.7km
【B案】
【乗り換え駅】大宮
【JR区間営業キロ】30.3km
経路図
柏(かしわ)発着は大宮発着よりも片道の営業キロが2.4km長いものの、東京以西のほとんどの目的地について柏発着でも大宮発着でも運賃は同額であり、両者に差が生じるのは次なる2駅のみである。なお、ここで示す金額については、付与ポイントを考慮していない。
【川崎】
【大宮乗り換え】814円
【柏乗り換え】935円
【横浜】
【大宮乗り換え】935円
【柏乗り換え】
【分割きっぷ】
予め品川で分割した紙きっぷを用意すればその運賃はIC運賃よりも安価である。
【柏~品川】650円
【品川~横浜】300円
【合計】950円
【IC運賃】1,100円
10km超の区間の距離別比較表は次のとおりである。この表には「トクだ値」の金額を記載していないので、実際に計画立案する際には「トクだ値」の金額も確認する必要がある。
① 房総/常磐/高崎/中央/踊り子
これらの特急列車が運行される路線ではグリーン車連結の普通列車が存在するので、普通列車のグリーン車を利用する場合の価格も併せて算出した。
「IC運賃」欄、「合計」欄、および「ポイント併用」欄は、付与ポイントを引いた値である。
「ポイント併用」の金額は、次なる運賃と料金の和であり、普通列車のグリーン車を利用する場合は、この案が最も安価である。
【運賃】一般と大休30割の安いほうの金額
【料金】ポイント交換Suicaグリーン券(600P)
特チの「合計」における運賃も、一般と大休30割の安いほうの金額である。
特チの「差」と「率」は、「価格差」と「換金率」を表しており、次のとおりである。
【70km以下】
【差】一般-特チ
【率】一般/特チ
【70km超】
【差】大休30割-特チ
【率】大休30割/特チ
この表が示す一般運賃は片道相当分の運賃であり、IC運賃である。また、この表は、運賃区間と料金区間が同一の場合である。運賃区間と料金区間が同一でない場合は、運賃区間の運賃と料金区間の料金をこの表から個別に抽出して合計することとなる。
【例】柏から日立(ひたち)までの特急の片道一般価格
【運賃区間営業キロ】120.0km
【運賃】1,941円(上限値120km)
【料金区間営業キロ】88.4km(柏~水戸)
【特急料金】920円*0.985>906円(上限値90km)
【合計】2,847円
特に、「あずさ/かいじ/富士回遊」の場合は、運賃区間と料金区間が同一ではないので、運賃区間の運賃と料金区間の料金をこの表から個別に抽出して合計することとなる。
【例】大宮から立川乗り換えで大月(おおつき)までの片道一般価格
【運賃区間営業キロ】88.3km
【運賃】1,488円(上限値90km)
【料金区間営業キロ】50.3km(立川~大月)
【特急料金】920円*0.985>906円(上限値60km)
【合計】2,394円
「踊り子」の場合も同様に計算することとなる。但し、「柏~東京」間も東京以西も普通列車グリーン車である場合は、グリーン車区間営業キロを通算できることに留意すべきである。
この表により、一般価格と大休30割の優劣分岐点は70kmであることがわかる。
また、普通列車グリーン車と特急列車普通車の優劣分岐点は次のとおりであることがわかる。
【ポイント不使用】150km
【ポイント使用】50km
なお、「踊り子」で「東京~熱海(あたみ)」間を利用する場合、「東京~熱海」間ではなく「品川~熱海」間のみ利用するとお得である。
さらに、次の場合は、「トクだ値」がお得である。
【ひたち】柏~仙台
【踊り子】東京~熱海(以遠)
「一般」の「運賃」の意味は、次のとおりである。
【横浜】品川分割の紙きっぷ
【その他】IC運賃
「サフィール踊り子」のグリーン車特急券は紙きっぷ限定であり、電子きっぷは存在しない。
普通列車のグリーン車を利用する場合の価格は、①のとおりである。
この表により、品川の場合のみ、大休30割よりも一般のほうが安価であることがわかる。
なお、「東京~熱海」間の場合は、「品川~熱海」間のみ特急利用するとお得である。
③ その他
「IC運賃」欄と「合計」欄は、付与ポイントを引いた値である。
普通列車のグリーン車を利用する場合の価格は、①のとおりである。
この表により、一般価格と大休30割の優劣分岐点が60kmであることがわかる。