国会中継を見ていたら、気になる発言があった。本日の参議院予算委員会における政府答弁において、菅(すが)総理大臣が「(ふるさと納税制度を)作らさせていただきました」と発言したのである。この「作らさせていただきました」という表現は間違いであり、「作らせていただきました」でなければならない。
【誤】作らさせていただく
【正】作らせていただく
「○○させていただく」というのは、あらたまった場面において、発言者が謙譲の意を含める際に使われる。「勉強させていただく」や「欠席させていただく」という具合である。「勉強する」や「欠席する」のように、動詞が「○○する」というサ行変格活用の場合は、「○○させていただく」は正しい。しかし、「作る」のように五段活用の場合の「作らさせていただく」は間違いなのである。五段活用の未然形に「さ」が付くことはありえない。
「作らさせていただく」のような間違った表現を「さ入れ言葉」と言う。「食べれる」などの「ら抜き言葉」と同様の命名である。
私が、現役時代に、社内で上司がある書面を代読する際に「読まさせていただきます」と発言したことがある。これも同様に間違いである。正しくは「読ませていただきます」である。
日本人(にっぽんじん)は、謙譲を美徳とする国民性を有しており、やたらと謙譲する。あらたまった場面であればあるほど、謙譲意識が加速する。その結果、「読まさせていただきます」という発言になってしまうのである。
謙譲意識が無くても、誤った日本語に慣れてしまうと、それが堂々と使われるようになる。昨今はテレビ番組でも頻繁に遭遇するようになった。バラエティ番組では発言内容がテロップで表示されることがあるが、テロップではさすがに「さ」を抜いてある。すなわちテレビ関係者は理解しているのである。
2016年3月のNHK連続テレビ小説「あさが来た」の放送において、主人公の波瑠(はる)が演じる「白岡あさ」が次のセリフを発した。
【商売から手を引かさせていただこう思うてますのや】これは、「商売から手を引かせていただこう思うてますのや」が正しい。NHK関係者は眉をひそめたことであろう。
なお、「勉強させていただく」が正しい旨を述べたが、過剰敬語であるという意見もある。「させて」と「いただく」が二重の敬語になっていて、過剰であるという主旨である。しかし、「勉強させてもらいます」というのはしっくり来ない。「勉強させていただく」で良いように感じられる。「(さ)せていただく」でひとつの謙譲表現と考えるべきであろう。