2022年1月12日(水)
某理化学機器会社のホームページを見ていて気になる表現に遭遇した。取り扱い商品のひとつに、ある装置の評価機器があるのだが、その「ある装置」のことを「〇〇〇〇シュミレータ」と表現している。この「シュミレータ」は「シミュレータ」のことと推察される。英語のつづりはsimulatorである。
そのホームページでは、「シミュレータ」という用語も存在している。「シュミレータ」で統一されているのであればまだしも、両者が混在しているのである。いいかげんとしか言いようがない。商品の性能を論じる以前の問題である。
「閲覧者が誤解することは無い」という意見もあるかもしれない。確かにそのとおりである。しかし、閲覧者が気付くような誤植であれば救われるのだが、閲覧者が気付く誤植が存在するということは、閲覧者が気付かない誤植も存在するかもしれない。閲覧者が気付かない誤植というのは、例えば数値情報である。測定範囲、測定精度、寸法、重量など数値で表現される情報については、閲覧者が誤植か否かを判断することは困難である。したがって、閲覧者は「シュミレータ」という誤植を含むホームページを公開している企業から物を購入しようとは思わなくなる。
私の現役時代に、ある大学教員は、学生の答案や論文で「シュミレーション」という表現を目にすることが多いと嘆いていた。「シミュレーション」が「シュミレーション」に変化する理由のひとつに、発音しやすさがあげられる。「シミュレーション」と発音するよりも「シュミレーション」と発音するほうが発音しやすいのである。それで、口頭の会話では「シュミレーション」という発音が自然発生するのである。「シュミレーション」という発音が人々の記憶に残ると、文字にする場合でも「シュミレーション」としてしまうことになり、それがじわじわと流布(るふ)することになる。広く流布(るふ)すれば、それが市民権を得ることとなる。日本語の音便(おんびん)のように、「シュミレーション」を容認する時代が来るかもしれない。まさに「悪貨(あっか)は良貨(りょうか)を駆逐(くちく)する」である。
「シミュレータ」に似た意味を持つ用語で「エミュレータ」ということばがある。これはIT業界で多用される専門用語である。英語のつづりはemulatorである。さすがに、「エミュレータ」を「エュミレータ」などと言い間違えたのを聞いたことが無い。それは、「エュミレータ」ということばが発音しづらいので自然発生しないものと推察される。
「シミュレーション」に似た発音のことばとして「コミュニケーション」がある。これも「コミニュケーション」と誤用されることがあるが、「シュミレーション」ほどではない。それは、「コミニュケーション」よりも「コミュニケーション」のほうが発音しやすいためと推察される。英語のつづりはcommunicationである。
また、現代用語のひとつに「飲(の)ミニュケーション」という用語がある。これについては、「飲(の)ミュニケーション」よりも「飲(の)ミニュケーション」のほうが多用されているように感じられる。それは「飲みに(行く)」という表現に引っ張られているためと推察される。
その理化学機器会社の問い合わせフォーム経由で修正を進言してみた。
<進言主旨>
ホームページに「シュミレータ」という表現がある。これは間違いない情報か。
【正】シミュレータ
【誤】シュミレータ
【英語】simulator
進言したのは2022年1月2日であった。問い合わせを受け付けた旨の自動応答メールは届いたのだが、現時点において未回答状態である(2022年1月11日現在)。何のための問い合わせフォームなのか。そのことだけを取ってみてもその会社の信用度を推し量ることができる。念のために、本日、問い合わせフォームではなく代表メールアドレスに進言を送信してみた。
<回答主旨>
修正した(2022年1月12日)。
この回答は代表メールアドレスに送信したメールに対する返信であった。問い合わせフォームからの進言については言及が無かった。問い合わせフォームは有効に機能してはいない可能性がある。
<結果>
進言どおり修正された(2022年1月12日)。