私は、頭髪については、どちらかと言えば悩み無き種族であった。しかし、加齢が進むにつれて、さすがに前髪部分の頭皮が見えてくるようになった。毛髪が付着した枕にコロコロを当てていた時、有名な一節(いっせつ)をもとにその心境を表せることに気づいた。
<枕の掃除>
春はあけぼの。やうやう(ようよう)広くなりゆく生え際(はえぎわ)、少し上がりて、シルバーだちたる髪の細くたなびきたる。
夏は夜。粘着コロはさらなり、闇もなほ(お)、白髪(しらが)の多く飛びちがひ(い)たる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光て行くもを(お)かし。ブラシでとくとを(お)かし。
秋は夕暮れ。鏡に写して髪の端(は)いと白う(しろう)なりたるに、いつもの寝所(ねどころ)へ行くと、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへ(え)哀れなり。散髪して刈り終えたるが、いと小さく見ゆるは、いとを(お)かし。弱り果てたるドライヤの音(おと)、虫の息(いき)など、はた言ふ(う)べきにあらず。
冬はつとめて。髪の散りたるは言ふ(う)べきにもあらず、髪のいと白きも、またさらでもいと薄きに、育毛剤急ぎ使いて、スミ塗り渡るも、いとわざとらし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、染めしあとも、白き頭髪になりてわろし。
タンスにゴン
<枕草子(まくらのそうし)>(原文)
春はあけぼの。やうやう(ようよう)白くなりゆく山際(やまぎわ)、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ(お)、蛍の多く飛びちがひ(い)たる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光て行くもを(お)かし。雨など降るもを(お)かし。
秋は夕暮れ。夕日の差して山の端(は)いと近う(ちこう)なりたるに、烏(からす)の寝所(ねどころ)へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへ(え)あはれ(あわれ)なり。まいて雁(かり)などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとを(お)かし。日入り果てて、風の音(おと)、虫の音(ね)など、はた言ふ(う)べきにあらず。
冬はつとめて。雪の降りたるは言ふ(う)べきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。
清少納言(せいしょうなごん)